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第11話 Ululani

 ハワイのネイティブの植物に “Ulu(ウル)” という木がある。英名はブレッドフルーツ、別名 “パンの木” と呼ばれ、実がグレープフルーツ大の大きさで鮮やかな黄みどり色をした “Ulu” には5種類あり、その昔ハワイアンの大切な食用のひとつだった。現在では特徴ある葉と実がハワイアンプリントを代表するデザインとして布や紙にプリントされ商品になり売られている。
 “Ulu” の木は、あちこちの家の庭でも見かけることができるが、私の住むManoa(マノア)からワイキキ方面に出る時に必ず通る道のある大きな家の庭にもかなり立派な木がある。ある頃から私はこの “Ulu” の木が気になり始めた。元々 “Ulu” は好きな植物のひとつであったが、このところ特に私の心を惹きつけていた、この “Ulu” はとても力強く、勢いがあり、その緑色が輝いていた。
 さて話は変わり、日本で “Alohaコンサート” を終え、7月中旬過ぎにハワイに一緒に戻った私とモエさんの甥を待っていたのは、以前から体調を崩していた彼の妹 “シャリーン” の訃報だった。
 1ヶ月前に一度入院していたアンティ “シャリーン” を見舞ったのが彼女に会った最後になった。片手に入る回数しかあったことのなかったアンティだったが、とても強烈に印象に残る人だった。背は大きくないがガッチリしていて、声も大きく迫力のある人で、いつも豪快に「ガハハー」と笑っていた。
 彼女のお見舞いに行ったのはちょうど時を同じくして私をとてもかわいがってくれているNiihauのアンティも同じ病院に入院している時だった。私たちが行くととても喜んで、前日まで集中治療室にいてまだ鼻に管を通している状態だったにもかかわらず一生懸命話をしようとした。私がベッドに近づくと私の手を握り 「You are Keale, yeah-!」 と言ったあと 「ガハハー」 と笑った。
 その時の握り締めた手の力の強さと、私の手に食い込んだ彼女の鮮やかな“黄みどり”色のマニキュアをした爪が痛かった。その感覚を今でもはっきりと想い出せるほどだ。そう言えば以前、ダウンタウンで偶然に会った時もシャリ-ンは鮮やかな“黄みどり”色のマニキュアに、同じ色のバッグを持っていた。
 お葬式の日、シャリーンのいとこのNiihauのアンティと一緒にシャリーンのお別れに行った。お棺の中で微笑むシャリーンの爪はやはり鮮やかな “黄みどり” 色だった。そして同じ色のドレスに身を包んだ彼女はとても美しかった。
 私はその日彼女のミドルネームが “Ululani” であることを初めて知った。最後まで彼女が身に付けた色、それは鮮やかな“黄みどり”色、まさに “Ulu” の実の色だった。最高 (lani) のウルの名を持ったアンティ シャリーンは今、天 (lani) のウル (Ulu) 、そう “ Ululani ” だった。
 シャリーンの姉妹のアンティが私に言った。 “シャリーンは、すでに天に行ったアンクル モエ やイズ、リディア達と共にあなたのハラウを見守ってくれることを覚えておきなさい” 。お葬式の帰り道、あの “Ulu” の木の前で、私はOliを捧げた。
 日本に帰る日の朝、その家の玄関の前まで行ってみた。すると中年の日系の婦人の姿を庭に見つけたので、朝の挨拶をした後、思い切ってUluをひとつもらえないか聞いてみた。まだみどりで食べられないわよ、と言うので食べるためではなく2週間程前にアンティが亡くなり、彼女の名がUlulaniだったことを伝えた。
 するとその婦人はとても快く了承してくれ、広い庭の一番端の道側にある立派なUluの木から実と葉をカットしプラスチックバックに入れてくれた。今年は特に豊作だそうだ。 “おばさんのために飾るのね” と手渡ししてくれた。私は “はい” と答え、何度もお礼を言いその場をあとにした。
 この話を読む頃、レッスンに来る都度に生徒たちはハラウの入り口に飾られるこの “Ulu” の鮮やかな黄みどり色を目にすることだろう。そして私はアンティ シャリーンの私への最後の言葉、 “ You are Keale ” を決して忘れない … 。
 時々ふと思うことがある、“ Keale ” の名が付いたことで私の人生は容易ではなくなった。しかしその分、それは深く特別な意味を持っている。そしてどういう道を歩むかは考えなくても自然と目の前に道が現れる。自分で道をつくるのではない。自然に与えられた道が正しい道だ。
 自然体であること、自然の成り行き、また自然自体が尊く大切なものだ。「自然の」の意を持つハワイ語 “ Kupono ” は pono (正しい) に ku (立つ) ということだ。自然に与えられた道がたとえ時に厳しい道だったとしても、私は常に “ Kupono ” であることを選びたいと思う。
by ohanaokeale | 2007-08-15 10:22


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